Topics 2002年5月21日〜31日    前へ    次へ


31日 COLI (Corporate-Owned Life Insurance)
30日 Generics訴訟
28日 Benefitの役割
24日 Victory for the President
22日 Living Wage Law
21日 選挙民の関心事項


31日 COLI (Corporate-Owned Life Insurance) Source : Companies Gain a Death Benefit (Washington Post)
COLIとは、従業員にかける死亡保険のことである。被保険者は従業員、受益者は企業となっている。かつては、企業幹部が突然死亡した場合、企業にとって大きな損失となることから、このような制度ができたそうだが、今では、一般の従業員を対象としたものが普及しているそうだ。

従業員が死亡した後に、その遺族がCOLIの存在を知り、怒る場合がある。その保険金は、遺族にはまったく回らずに、企業側に支払われるためだ。上記記事の中でも、Consumer Federation of Americaの代表者が、「そのような保険は何のためにあるのか」と怒っている。

企業側としては、退職者医療や企業年金のファンドとして利用することが多いらしい。税制上、生命保険に関する投資利益(Investment gains)は非課税であり、また死亡保険金自体も所得税が課せられない。企業側は、生命保険を利用することにより、非課税で投資利益が得られることになる。投資利益が非課税であるために、「現時点から2006年までの間に131億ドルの税収減が発生する」との試算もある。

死亡保険金は遺産税(estate tax)の課税対象となっているものの、様々な抜け道があるらしく、実際にはかなり課税を免れるらしい。従って、生命保険は、企業や資産家にとっては、節税できる投資手段となっているとのことだ。

さらに、企業の場合、生命保険資産見合いの借り入れを行うことで、キャッシュ・フローを手にし、しかも借り入れ金利は損金算入してしまうこともできる。

こうしたメリットを反映し、COLI保険料の支払いは、2000年の150億ドルから2001年には280億ドルと急増している。

保険制度から見て、COLIの正当性は、「従業員に保険をかけるだけの必要性が企業側にあるかどうか」にかかっている。専門家は、その必要性が本当にあるのかどうか疑問を呈している。しかし、National Association of Insurance Commisions(保険に関する州政府監督者の団体で、モデル州法を作成している)は、退職者医療のコスト等を確保する手段として魅力的であるとして、その正当性を認めている。

多くの州もこれにならって、条件付きでCOLIを認めている。その条件とは、例えばMarylandでは、事前に従業員の承諾が必要としている。またVirginiaでは、保険に加入した後に従業員に知らせなければいけない。また、両州とも、死亡保険金は従業員のbenefitのための資金に利用することとなっている。

従業員に保険をかけて、万一事故が発生した場合に備える(例えば退職金や弔慰金にあてる)という制度は、日本でもよくあることである。問題は、従業員の同意または告知が行われていることをどうやって確認するかだ。日本では、この点が大変甘かったために、保険金殺人が多発したと思われる。アメリカではとうなっているのか。また、企業年金にしても医療保険にしても、その保険料や拠出金は税制上損金算入できるようになっているはずであり、それを超えて税制上のメリットを提供する必要があるのか、疑問である。

30日 Generics訴訟 Source : AARP joins drug pricing challenge (Star-Ledger(NJ))
AARPは、Genericsの導入を増やすことで、高齢者の処方薬に関するコストを下げる運動を行ってきた(Topics 「4月9日 Generics」)。そのAARPが、今度は、集団訴訟に参加することになった。

集団訴訟の案件は、次の3件となっている。
@対Bristol-Myers Squibb社。BuSpar anxiety pillという不安緩解剤に関する特許を不当に延長した。
A対AstraZeneca Plc and Barr Laboratories社(generic maker)。AstraZenecaという乳がんのための薬のgenericを、市場に出さないようにしている。
B対Schering-Plough社、Wyeth and Upsher-Smith Laboratories社。Schering-Plough社の"K-Dur 20"という抗高血圧剤のgenericを、共謀して市場に出さないようにしている。

AARP会長は、「今回の集団訴訟参加は、処方薬の価格を下げるためのキャンペーンの一環だ」(Washington Post)とも述べている。

これに対して、製薬メーカー側の代表であるPhRMA(Pharmaceutical Research and Manufacturers of America)は、「1984年の法改正以来、約8000のgenericsが[FDA(Food and Drug Administration)により]承認されている。そのうち、特許が問題となったのはわずか475件だ。しかも、処方薬全体に占めるgenericの割合は、1984年に19%しかなかったのが、現在では49%にまで上昇している」として、「AARPは訴訟に参加するのではなく、議会に訴えるべきだ」とも言っている。

AARPは、当然、議会に対してもロビー活動を行っている。中間選挙を控え、高齢者の票をバックに、まさに、たけなわというところだろう。この訴訟がどれだけの効果をもつのか、注目しておきたい。

28日 Benefitの役割 Source : The Many Benefits of Providing Benefits (BusinessWeek)
医療保険料の高騰により、医療関連のbenefitが削減される怖れが高まっているとの記述がよく見られる。Total compensationという考え方に立てば、給与を減らそうが、benefitを減らそうが同じ事ということになるが、やっぱりそうはいかないらしい。経済状況や、経営状態が悪化すると、まずはじめにbenefit関連のコストやプログラムを削減しようとする動きが出る。

こうした動きに警告を出しているのが、上記Sourceである。この記事では、benefit関連のコスト削減に走ると、従業員のloyalty、productivityが低下し、経営はさらに悪化するとしている。むしろ、従業員は大切な経営資源であり、その従業員に関するbenefitは、コストと考えるのではなく、投資と考えるべきだという。

柔軟な雇用関係において、経営者側はEmployment at willの論理を強く打ち出し、人件費を変動費のごとく扱っている一方で、コアとなる従業員については、特別なbenefitを提供したり、技能向上を図る様々な工夫をして、できる限り転職させないよう、誘導しようという傾向が強まっているようだ。

別のこの記事では、従業員に大学、大学院での単位取得を大いに奨励している企業が紹介されている。United Technologies Corp.という企業は、社員が大学・大学院の単位を取得するためのプログラムを用意しており、このプログラムへの社員の参加率の目標を20%としている。社員の20%がフルタイムまたはパートタイムで大学・大学院に通っている状態を目標としているということだ。現在の参加率は17%であり、さらに高める工夫をしているという。これだけ寛大なプログラムを用意して、社員がどんどん転職していくのではないかとの懸念もあるだろうが、現実は逆で、転職率は極めて低いという。その最大の理由は、社員がこの企業にとどまって働いている限り、自らの技術向上に希望を持てるからだという。

このように、自主的に向上しようというマインドを従業員が持っていることが、生産性の向上につながると考えるbenefitの専門家が増えている。ちなみに、AONというコンサルティング会社のレポートで紹介されいてる、生産性向上に必要な要素を描いた図は、次のようになっている。



この図の下から2番目の要素、Rewardsのところで、従業員の61%は、もっとbenefitsの割合を増やすべきだと考えている。ここでも、従業員にとってのbenefitsの重要さが示されている。

ちなみに、AONは、各項目について上記のようなコメントを付し、全体的に、アメリカ企業に勤める従業員の職場に対するcommitmentが低下しつつあると警鐘を鳴らしている。実際、AONが計測しているworkforce commitmentは、2000年、2001年と低下している。


24日 Victory for the President 
Sources : Senate Approves Bill Giving Wider Trade Authority to Bush (New York Times)
      Senate Approves Trade Authority (Washington Post)
      Senate OKs Bipartisan Trade Bill (AP)
23日夜、trade promotion authority (旧称fast-track)に関する上院法案が可決された。

これは、国際貿易協定に関する大統領・行政府の交渉権限を強化するための法案であり、ブッシュ大統領が就任以来、一貫して再優先課題として主張してきた法案である。

報道されている上院法案の主な内容は次の通り。

1. 貿易交渉関連 2. 労働者保護関連 大統領の交渉権限を強化するかわりに、貿易拡大により影響を受けた労働者に手厚い保護政策を行うという内容だ。

下院はすでに昨年12月に、上記@だけの法案を僅差で可決している。今後は、夏に向けて、中間選挙を睨みながら、両院協議会で最終法案を詰めることになる。そうした意味で、交渉権限強化の実現に向けて大きく前進したわけだが、重要なのは、上院法案の賛成票数だ。

民主党 共和党 Independent 総 数
賛成 24 41 1 66
反対 25 5 - 30

拮抗している上院で、66対30の大差で法案が通過したことが、その実現性の高さを示している。それゆえに、上記Sourceでは、いずれも (significant) victory for the Presidentと評しているのだ。

もともと民主党は、自由貿易推進には消極的である。しかも、共和党内にも、中間選挙を控え、選挙区内に鉄鋼、繊維など貿易拡大によりダメージを受ける産業を抱える議員は、同法案には徹底抗戦の構えで望んでいた。それらを抑えて法案が大差で通過したのは、上院Majorityである民主党幹部とWhite Houseの間で交渉が行われ、上記の2.労働者保護関連について、White Houseが大盤振る舞いをして、合意に至っていたためだ。

White Houseとしては、上記1.のAが最終法案に残っている場合には、大統領拒否権を発動するとしており、最終段階での詰めがどうなるか、予断を許さない状況である。もっとも、この交渉権限拡大は、クリントン政権時代の1994年に、大統領と議会の反目から、継続ができなくなったものであり、その意味で、民主党大統領が誕生すれば、民主党としても必要になってくる。従って、ここは、できるだけ条件闘争で副産物を引き出しておいた方が民主党にとっては得ということだろう。Aを落とす代わりに2.労働者保護関連でさらに上積みすることで、最終決着が図られるのではないかと思う。

ちなみに、「医療保険への補助が大きくなるようでは、反対に回ると宣言していた」US Chamber of Commerce(Topics「5月2日 医療関連法案ラッシュ」参照)は、23日のプレスリリースで、「今回の上院法案の可決を評価するものの、USCCは下院案を支持しており、(おそらく上記Aを指して)上院案には依然課題が残っている」と指摘している。

22日 Living Wage Law 
Source : 'Living Wage' Roulette: A Bigger Paycheck, or a Pink Slip? (New York Times)
アメリカでは、日本と同様、最低賃金が法定されている。"Fair Labor Standard Act of 1938"という法律により、最低賃金率が定められている。具体的には、1時間当たり$5.15(2002年)となっている。また、州レベルでも、独自の最低賃金率を定めている州もある(連邦ならびに州による最低賃金率の一覧表)。

他方、様々な福祉行政の基準となっているのが、Poverty Guidelines(俗称"Poverty Level")であり、これも全米で適用されている基準がある。2002年基準では、家族4人で年収$18,100となっている。単純にこのPoverty Guidelineを連邦最低賃金率で割ると、年間3,515時間、週あたり67.6時間働かなければならない。つまり、4人家族で働き手が一人しかいなければ、最低賃金率では貧困層に陥ってしまうのである。

これらはいずれも、連邦レベルでの貧困対策、または貧困対策の基準として用いられている。しかし、Cityレベルでは、これらとは別の試みが行われている。上記Sourceで紹介されている、"Living Wage Law"というものである。

この法律は、都市で生活するのに必要な賃金を確保することを目的とした法律で、現在、約80の地方自治体が採用しているそうだ。この法律を採用した地方自治体と契約関係・請負関係を持つ企業は、その法定賃金率を上回る賃金を提供しなければならず、通常、連邦・州レベルの最低賃金率を大きく上回る。

従って、これらの法律を有する自治体と契約関係を持つ企業の従業員は、大幅な給与改善に恵まれることになるわけだが、企業側からすると、労働市場レベルよりもかなり高い賃金を提供する必要があることから、事業の合理化・人員整理により対応しようとすることになる。従って、この法律により、職を失う従業員が出てくるということになるので、上記Sourceのようなタイトルとなるわけだ。

Living Wage Lawについては、様々な評価がある。

メリット デメリット 従って、上記Sourceにもある通り、いくつかの大都市に加え、現在、New York Cityが検討中との事だが、全米に次々と浸透している、というほどの広がりは見せていない。学会でも、最近、関連論文が公表されている。上記Sourceのもののほか、Upjohn Instituteのworking paperにも、2本論文()が掲載されている。

経済成長を謳歌してきたアメリカ経済だが、Living Wage Lawのような所得政策が考慮されているところをみると、貧困層と富裕層の格差がかなり広がっているのかもしれない。

21日 選挙民の関心事項 Source : National Survey by NPR
20日、National Public Radio(NPR)のMorning Editionで、NPRが委託した、秋の中間選挙に関する世論調査が発表された。この調査は、Topics 「4月4日 Social Security Reform」で紹介した、NPRによる世論調査の続編である。

今回は、ずばり、政局をテーマに調査を行っている。大胆に要約してしまうと、
@選挙民は、ブッシュ大統領の仕事振りには合格点を与えているものの、
A中間選挙では、国内問題を争点としてとらえており、
Bそれら国内問題では民主党への支持が高い、
ということになる。

では、国内問題の中で、最もプライオリティの高いテーマは何かというと、次のようになる。



そして、上位4つのテーマについては、民主党候補への支持が共和党候補への支持を上回っているのである。



こんな状況なので、ブッシュ大統領も、こんなラジオ演説をしているわけだ。